後遺障害の等級認定には時間がかかるため、その結果が出る前に、傷害部分の損害について先に示談を成立させることがあります。これを「先行示談」といいます。賠償金を早く受け取れるメリットがある一方、示談書の内容を誤ると後遺障害部分を請求できなくなるおそれもあります。
先行示談とは
傷害部分と後遺障害部分は分けて考えられる
交通事故の損害は、大きく「傷害部分」(治療費・通院交通費・入通院慰謝料・休業損害など)と「後遺障害部分」(後遺障害慰謝料・逸失利益など)に分けられます。先行示談とは、後遺障害部分の被害者請求の結果が出る前に、傷害部分の損害について先に示談を成立させることをいいます。
なぜ先行示談が行われるのか
後遺障害の等級認定の審査には数か月かかることがあり、異議申立てをすればさらに長期化します。その間、傷害部分の賠償金も受け取れないままでは、生活への影響が大きくなりかねません。先行示談をすれば、金額の固まっている傷害部分について早期に賠償金を受け取ることができます。
先行示談のメリット
- 傷害部分の賠償金(入通院慰謝料・休業損害など)を早期に受け取れる
- 後遺障害の審査や異議申立てが長引いても、生活資金への影響を抑えられる
- 争いのない部分を先に確定させ、争点を後遺障害部分に絞ることができる
最大の注意点――示談書の清算条項
「一切の請求を放棄する」条項の危険性
示談書には通常、「本件事故に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入ります。この文言のまま先行示談をしてしまうと、後日、後遺障害等級が認定されても、「示談で解決済み」と主張され、後遺障害部分を請求できなくなるおそれがあります。
必ず「留保条項」を入れる
先行示談をする場合には、示談の対象を傷害部分に限定したうえで、「後遺障害が認定された場合には、後遺障害部分の損害について別途協議する」といった留保条項を必ず入れる必要があります。保険会社が用意する示談書の文言のままで問題がないか、署名前に弁護士のチェックを受けることを強くおすすめします。
先行示談を検討すべき場面・避けるべき場面
- 検討してよい場面:傷害部分の金額に争いがなく、適正な金額が提示されており、留保条項を入れられる場合
- 慎重になるべき場面:傷害部分の提示額が低い場合(弁護士基準との差が大きい場合)や、過失割合に争いがある場合。過失割合は後遺障害部分にも影響するため、先に安易に合意すると不利になることがあります
よくあるご質問
Q. 先行示談をすると、後遺障害部分は請求できなくなりますか?
示談の範囲を傷害部分に限定し、留保条項を入れていれば請求できます。逆に、留保のない包括的な清算条項で示談してしまうと、請求が困難になるおそれがあります。示談書の文言が決定的に重要です。
Q. 保険会社から先行示談を提案されました。応じてよいですか?
提示額が適正か(弁護士基準で計算されているか)、示談書に留保条項が入っているかを確認する必要があります。署名する前に、一度ご相談ください。